「美しき地方の時代」と「新陳代謝可能な日本」の創造を目指し・・・

コラム

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「チャイナリスクとアジア戦略」(2/2)

(「現代リスクの基礎知識」 nikkeiBPnet 2010/11/05)

 こうした中、ベトナムとは原子力発電所の建設のほか、レアアースの共同開発でも合意した(10月31日)。インドとも、EPAの締結以外に、レアアースについて代替資源の研究開発や再利用での協力方針が打ち出された。また、ハイブリッドカー用に、インド東部オリッサ州でレアアースの精製工場建設を発表(10月15日)した豊田通商のように、リスクヘッジに向けた動きはすでに始まっている。

 日本は新幹線や原子力発電、水処理施設などのインフラ事業において海外輸出の実績を作る時期にある。国際入札で勝ち抜くためには、トータルコストで多少割高になったとしても、メンテナンスコストやマシンの性能、稼働率などを考慮したり、あるいは完成までのスケジュール、それらインフラの稼働に向けたマネジメント、引き継ぎでは安全安心を提供できることを証明すれば良い。

 通信施設を含め、こうした大規模インフラはライフラインとなる。プロジェクトの遅延や、大きな事故の発生は、相手国の政権自体に大打撃を及ぼすことになるので、単に価格だけで決まらない世界でもあり、そういう点をアピールすることが必要だ。これらがビジネスモデルの再定義である。

 製品とサービス提供というパッケージ一体となった進出で総取りを狙う日本と、部分最適でより安く現地にもスキルが残せるようにしたい発注元の間でせめぎ合いが生じ、その落しどころへの知恵やスキームの確立が模索されている。多くの成功事例が蓄積されるまでが我慢どころであり、政府からの支援、トップセールスは欠かせない。

 日本に期待されるODAなどの資金援助、あるいは入札に向けた現地(地方政府)からの要求水準は、競合相手となる中国や韓国の台頭によって、さらに厳しいものとなっている。自由貿易協定(FTA)やEPA、さらにはAPEC直前にクローズアップされた環太平洋経済連携協定(TPP)を結ぶ相手国は、日本への人的サービス(特に医療や介護分野での看護士や介護福祉士)の受け入れを要請している。インドとのEPAでも継続協議とされた案件であるが、受け入れる方向に向かわざるを得ないだろう。

・2015年に向けたのりしろ

 こうしたFTAやEPAの締結合意で、日本はいつまでにどの程度の変革が求められるのか。戦略的グローバル・パートナーシップでは、10年をめどに、二国間や地域内の関係を強化することになる。ASEANは、90年代後半に2020年までの域内経済統合を決めていたが、その期限は2015年まで前倒しされており、TPPはその仕上げへの担保のようなものである。

 日本のTPPへの参加の意志表明は、その2015年にTPPが稼働するからである。TPPは環太平洋の拠点となる4国(シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ)が最初に経済圏としての成立を目指したもので、むしろフレームを作り、その中に米国も含めた主要国が入ってくるように仕組みを整えた形になっている。

 ASEAN10カ国での経済統合は次第に広範な協力を推進するようになり、ASEAN+3(日中韓)の枠組みがスタート。2000年以降、ネットワークの普及による経済のグローバル化の進展に伴って、より大きな市場を包含し、自由貿易によって効率良い市場取引を目指すことが参加国それぞれのメリットとなってきた。

 日本は資源を持たない国なので、本来、シンガポールのような立ち位置で、ものを加工する技術での優位性を強みとしなければならない。そのためには、英語によるコミュニケーションを活発化させる必要がある。前回の本コラム「チリ鉱山落盤事故の救出と日本の貢献」でも伝えたが、いざ善意の貢献をしたくても、その前に具体的な経験や成果があるのか、資材やマンパワーを含め、災害地の近くに駆けつけることができるのか、さらにはコミュニケーションスキルを有するのかが問われてくる。このコミュニケーションスキルには、世界で共通の言語となりつつある英語をいかに操るかということと、国際貢献(あるいはリスクマネジメント)の専門家としてのブランドづくり、情報発信力、ネットワーク構築力も含まれる。

・フットワークの軽い企業組織を目指し

 より小回りの利く企業組織を目指す上では、スキルを確保したエキスパートが起業や独立しやすくすることと、中小企業を含め、アジア諸国など新たな市場を創造し、連携する国や地域との相互利益を確立することが重要である。

 優秀な人材が企業内に留まり数少ないトップのポストを目指すのではなく、体力のあるうちに外に出てグローバル感覚を学ぶ。そうしたチャンス、起業直後のブランドの保証、あるいは万が一うまくいかなかったときに再チャレンジを保証する仕組みをどう作るかがキーとなろう。才能があるにもかかわらず十分に職を得られていない若者が、EPAやFTAで連携する相手国の先端部分で活躍し、あるいは国内で影響を受ける産業や企業、自治体をサポートするマンパワーとしてのポジションを確立するためには、政府が積極的にこうした市場を作り、仕事を作り出す工夫をすることである。

 一方で、日本が自ら出ていくのではなく、人材教育の場としてアジアなどから人を迎え入れる環境づくりも考慮すべきであろう。EPAやFTAは、ヒトやサービスの交流、行き来を保証するものだが、「アウェイ」で右も左も分からない中で努力するより、「ホーム」で自らに足りないスキルをサポートし合うチームとともに各種サービスを提供するのも一計だ。滞在者が日本での観光や生活を通し、内需へと貢献することが望ましい。

 そうした働き方を考えた場合、国全体をマザー工場化し、日本的サービスやサポート、保守などを学ぶための各種ツールを整備することが求められよう。情報通信技術(ICT)の活用により、日本国内ですべてを構成する必要はないが、欧米を中心とした英語文化圏でのMBA的管理技術とは一味違う日本の安全安心が、諸外国で注目されようとしている。海外では英語でのコミュニケーションが不可欠だが、国内では他言語と日本語の間の自動翻訳が高度化されれば、より多くの伝承を日本国内で行うことが容易となる。

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