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コラム

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「チャイナリスクとアジア戦略」(1/2)

(「現代リスクの基礎知識」 nikkeiBPnet 2010/11/05)

 民主党が政権を奪取し、一年超が経過したが、マニフェストの見直し、小沢元幹事長の証人喚問、円高対策、事業仕分けでのパフォーマンスなど、野党からの攻撃は強まるばかりである。そのすき間を縫って、中国が尖閣諸島問題で強気の対応を見せ、民主党政権の実力を試している。

 さらに11月4日の深夜から5日の早朝にかけ、公開が控えられていた衝突時のビデオらしき映像がYouTubeに流出。影響はこれから明らかになるが、まだまだ日中関係はくすぶり続けている。

 そこで今回は、APEC横浜での首脳会議を前に、日本と中国の間の外交や経済通商、ビジネスリスクにおける日本の立ち位置を整理しておきたい。

・チャイナリスク

 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件やその後のレアアースの輸出制限、通関手続きの強化など、中国側からの菅政権への揺さぶりには、いくつかの理由が考えられる。

 一つは、中国がこれから新しいリーダーを選ぶ過程で、強硬派を含め、政治的指導力を見せる必然性があったこと。二つ目は、中国国内の貧富の差や蟻族(大卒でありながら良い職に就けず過酷な生活を強いられる若者層)に対するガス抜き。三つ目は、普天間基地移設問題や日米同盟関係での沖縄や尖閣諸島に対する米軍の姿勢の確認。さらに四つ目は、民主党政権が領海のグレーゾーンにどのように対応するかの確認である。

 中国がこうした強気な姿勢を見せる背景としては、中国経済が好調であることに加え、製造業の現場における技術指導や高等教育などで一定の成果を得たことで、日本の技術をさほど必要としなくなってきたことが挙げられる。また、中国と台湾が蜜月関係にあり、尖閣周辺で日本ともめても、香港などから横やりが入らない安心感も考えられる。

 こうした中国からのチャレンジに対し、民主党は当事者意識に乏しい。自民党が長年リスクを先送りにしてきたためであり、その尻拭いをさせられているようなもの、という感覚だろう。確かに、グレーゾーンを設け、お互いに踏み込まないという点では、長い歴史が両国間にあった。これに対し、民主党は右と左がくっついた形であり、相手が強気の態度に出て猛然と抗議すると、今度は弱気の部分が出る。結局、足元を見られ、陣地にどんどん入り込まれる状態が続く。

 必要に応じて政権交代が可能な二大政党を望んだのは有権者だが、冒頭に列挙したような様々な課題を前に、民主党自身が分裂しそうな状況にある。より強力な政権運営には、保保連合やパーシャル連合が不可欠ではないかという見方もある。

 中国国内でのデモや労働者らによるストは進出企業や駐在員、その家族らを不安に陥れる。一部企業では、製品や部品の輸出入において、貨物検査率の引き上げにより通関手続きに時間がかかり、貨物に遅れが生じているとの報道もある。

 こうしたチャイナリスクの顕在化とそれらへのリスクヘッジでは、二つのことが求められる。一つは、製造拠点の分散であり、もう一つはサプライチェーンを含むビジネスモデルの再定義である。

 製造業の加工拠点については、日本国内はマザー工場として先端技術あるいは知財など自社が確保すべきものに特化し、実際のものづくりは中国に移行して久しい。安く・早く・大量かつ確実にものを作れる場所に製造拠点が移行する「フラット化」はますます加速する。世界の製造工場を自負する中国には、この10年間、ありとあらゆる国々からアプローチがあり、その都度、格安で製品を作るかわりに、研究開発や技術教育の面で「発展途上の中国の支援」を約束させ、確実にスキルアップを図ってきた。

 新幹線でいえば、日本やフランス、ドイツの製品・技術を導入し、それらを「改良」し、今ではアジアや第三国(中南米)などへの高速鉄道の売り込みを図ろうとしている。電気自動車でも、やがてミドルテクの車種が完成しそうな勢いだ。なにしろ、中国という独自の国内市場だけでもビジネスとして十分に成立するので、製品化を進めながら研究開発を重ね、さらに先を目指すこともできる。

 ただし、中国は自らの国内市場のために、さらに経営資源を必要とする。レアアースの希少性に気が付き、海外に出す量を制限し始めるのも、中国側のスタンスからは理にかなう。もちろん、中国側が勝手に絞ることはできないし、中国が必要とする精密機械は日本がレアアースを使い磨き上げたものであったりする。つまり、中国と日本は一方的に切り離せるほど単純ではない関係にあるのも実情だ。

・日本からの切り返し

 そうは言っても、チャイナリスクが顕在化し、懸念していた「事態」が浮上したら、関係者の動きは速い。特に、企業はリスクヘッジとして次なる拠点を考えることになる。そうでなくても、中国での加工が単純加工から複雑な作業のものに向かうなか、台湾企業はいち早くベトナムなどへと動いている。水先案内人としての華僑ネットワークがあり、簡易加工なので、工場はたたみやすく、立ち上げやすい。スピード経営が命の世界である。

 日本は、ここ数年、対中ビジネスにおいてバブルの崩壊や人民元の為替レベルの調整などに若干の懸念材料を有していた。しかし、靖国参拝などに対する小泉政権当時の揺さぶりとは異なり、友愛外交を旗印とし、戦略的互恵を主張する民主党政権がここまで揺さぶられると、企業経営、事業戦略、国際戦略の立場からは、拠点の再検討が不可避となる。

 日本政府は、2008年9月のベトナムとの経済連携協定(EPA)合意(2009年10月1日発効)に続き、今年10月25日にはインドとのEPA締結に成功した。ベトナム、インド両国とも、領土問題で中国との懸念材料を抱えている。また両国とも、インフラ整備、特に高速旅客鉄道や貨物鉄道、原子力発電などエネルギー設備の整備に日本の技術や資金を必要としている。

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