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「中台FTAの概要と日本への期待」(2/2)

(「現代リスクの基礎知識」 nikkeiBPnet 2010/08/31)

(2)アーリーハーベスト

 経済、貿易面での広範な枠組みを決めた中台FTA(ECFA)の中でも早期に対応が必要とされる関税引き下げについては、アーリーハーベスト(先行実施項目)が設けられている。これにより、6万人の就業機会が創出され、生産高5130億円、国内総生産(GDP)1480億円の押し上げ、関税引き下げによる800億円のコスト削減効果が期待できる。ECFA全体では、生産高が2兆4500億円、GDPが6250億円増加する経済効果があるとの試算が出ている。

1.製造業 

 目に見える成果としてのアーリーハーベストのうち、製造業では、一部石油化学製品、工作機械、化学繊維、乗用車などを除き、台湾側が中国側に539品目の関税引き下げを求めた。これは、138億3800万米ドル、台湾からの輸入全体の16.14%を占める。一方、中国側からは、267品目の引き下げ要求があり、28億5800万米ドル(中国からの輸入全体の10.53%)分が該当する。

 このように、中国と台湾の経済規模、ECFA導入後の影響力をかんがみ、双方の引き下げ要求品目を決定している。

 関税引き下げのスケジュールは、双方の関税の基本構造が違い、台湾側のインパクトが大きくなるため、アーリーハーベスト実施の2年間で3段階ずつ0%へ引き下げるが、引き下げレベルは台湾が7.5%から2.5%ずつ、中国が15%から5%ずつと、台湾は中国の半分とした。

2.農業
 従来から中国からの輸入を禁止している農産物830品目については、これまでの規制を維持する。既に開放されている1415品目についても関税引き下げは行わないという台湾側の要求に加え、中国が台湾農産物18品目に対し関税引き下げを認めるという破格の条件を引き出している。

3.サービス業
 サービス業では学歴やライセンスの相互承認は行わないことが確認された。また、大陸労働者の台湾での就労は、ブルカラー、ホワイトカラーともに認められない。これらは、台湾の中台両岸政策に抵触しない(政治イデオロギー、産業の安全と安定を脅かさない)などを確認し、交渉に応じた。

 非金融サービス業では、双方がニーズの高い8項目を要求。台湾側が認められたのは、会計監査簿記サービス業、コンピュータソフト及びデータ処理、自然科学およびエンジニアリングの研究開発、コンベンション、デザイン、台湾製映画の中国での輸入割り当て規制の撤廃、病院の設置、航空機のメンテナンスなどである。一方の中国側は、研究開発、コンベンション、専門展示会の共催、特製品のデザイン、大陸の中国語映画・共同制作映画の配給上映の10作品、マネジメント業、スポーツレジャー、航空輸送サービス業のコンピュータチケット販売システムなどが挙げられる。

 研究開発やコンベンション(会議を含む観光戦略)、各種ソフトウェアとともに、映画などコンテンツ産業が双方のニーズに含まれていることが興味深い。なお、台湾側の病院の設置は、進出台湾企業に対するオフタイム、生活向上へのサポートを狙ったものである。

 金融サービスでは、台湾側は、銀行業、証券先物業、保険業が認められ、中国側は銀行業のみ認められた。

4.その他
 臨時原産地規制を制定し、両岸以外の国が迂回貿易によりタダ乗りすることを防ぐ。また、セーフガードの行使、双方のビジネス拠点設立の要領などについても取り決められた。ECFAの条文は繁体字版と簡体字版の両方で書かれ、WTOオフィシャル言語(英語、フランス語、スペイン語)でも記述されるようになるが、双方が作る他言語での調整はこれからとなる。

(3)産業支援プラン

 ECFAの影響を受ける伝統産業や中小企業に対しては、産業界と研究機関の連携強化、技術移転やイノベーションを推し進めるほか、海外市場への進出を支援する。こうした手法は日本でも見られるが、台湾にとって中国は、同じ中国語を話す意味では有利であるといえる。特に、中台両岸の産業サプライチェーンの統合を進め、台湾企業のグローバル化へのラストワンマイルをつなげることに意味があるようだ。自動車、機械、繊維、石油化学などでは、マーケットセグメンテーションと製品カテゴリーにより、ローエンドは中国側、中高級製品は台湾側で研究開発、製造と住み分けが加速する。

 そのため、台湾政府は、政府が所有する研究開発機関、各種産業センターなどを集結し、中小企業および伝統産業に対する研究開発、技術移転を加速する。また、そのためのデータベースや各種プラットフォーム、試験検査用の設備などを整備する。この中には、ソックス、バッグ類、靴、タオルなどの高速デザイン設備、既製服や足形のデータベースなどが含まれ、設計開発のコスト削減による付加価値向上を目指しているようだ。

 進出先の中国市場では、台湾貿易センターが中国主要都市で展示会を催し、安全性やデザイン面での優位性を訴求し、富裕層、高級製品市場に参入する。このあたり、日本と市場がバッティングしてくるが、関税がゼロに向かうなか、台湾側の価格競争力が出てくることに留意が必要だ。

 また、MIT(メード・イン・タイワン)のロゴ製品認証制度を導入し、ロゴ製品のプロモーションを、中国を含む海外市場で展開する。

(4)中台FTAの効果

 台湾は、中国とのFTA締結にこぎつけたことで、これまでパナマ、グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラスに留まっていた中米5カ国以外との締結を目指すことになる。具体的には、米国、EU、ASEAN,シンガポール、日本、韓国、P4(シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ)などが候補となる。

 また、中台FTAが9月上旬に発効された場合、来年1月1日から段階的に関税が引き下げられる。現状では、プラスチック原料や化学繊維原料、プラスチック製機器及び計器用部品、カメラモジュールなどは、ASEAN製品と激しい競争にさらされているが、これら(台湾製品の約2割を占める製品)の緩和が図られる。

 さらに台湾が日韓に対して有利とされる製品は、自転車および関連パーツ、石油化学原料、工作機械、テクスチャード加工していないポリエステル長繊維布、放電ランプなど。これらの中国市場でのシェアが奪えるとしている。

 なお、国内であるが、所得税法が可決し、法人税が25%から17%に引き下げられるため、減税後は中国(25%)、韓国(22%)よりも強みを持つ。これらは、シンガポール(17%)や香港(16.5%)とのアジアハブに向けての企業誘致競争を仕掛けたものともいえる。また、相続・贈与税や個人所得税も大きく緩和し、投資の呼び込み、国際競争力の向上に努めている。

(5)日本への期待

 一方で、中台FTAが締結されることにより、台湾の中国へのゲートウェイとしてのポジションがさらに強化されることを利用し、台湾は日本などとの協力関係の構築も目指している。例えば、台湾は日系企業に対し、LCDガラス、工作機械、家電の分野で生産拠点としての活用を提案している。

 LCDガラスは、ECFA締結に伴い、2年以内に中国の関税が0%となるため、台湾での労働力、技術レベル、知財保護を利用し、生産拠点とすることで、価格競争力のある中国向け液晶テレビの製品供給が可能となる。

 工作機械分野では、台湾は世界6位の生産国、4位の輸出国である。こちらも、中国の関税が2年以内に0%となるため、製造拠点としての可能性を見出せる。

 また、家電(温水器、空気清浄機、電気暖房器具、掃除機、ミキサー、アイロン、電熱鍋、オーブンなど)についても同様に、2年以内に関税が0%となるため、台湾を生産拠点にできるとしている。

 さらに、未来志向では、日本が台湾をアジア太平洋地域のテストマーケティング、設計開発、東アジア調達センターとして活用することが提案されている。特に、新産業領域では、省エネ太陽電池産業でのウィンウィンの構築が有望視されている。

 進行中の「愛台12建設」プロジェクトへの参加も期待される。これは、スピーディーな交通網、高雄自由貿易港・エコポート、中部ロジスティックスセンター、桃園国際空港都市、スマート台湾(インテリジェンス台湾)、産業イノベーションベルト、都市工業区再生、農村再生、エコ造林、海浜開発、洪水防止・治水、下水道建設の12の公共建設事業である。なお、台湾政府は2010年10月から、日本、シンガポール、香港のほか欧米で大々的に企業誘致を呼びかけるようだ。

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