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「中台FTAの概要と日本への期待」(1/2)

(「現代リスクの基礎知識」 nikkeiBPnet 2010/08/31)

 

中国と台湾の間の自由貿易協定(FTA)に当たる両岸経済協力枠組み協定(ECFA)の承認案が、台湾の国会(立法院)で8月17日夜に可決された。これで、9月初旬に協定が発効し、来年1月1日から関税引き下げがスタートする。

 WTOの統計によれば、GATTの時代から今年7月1日まで、281件のFTAが発効しているが、2000年以降、毎年11~26件のペースで加盟が続き、ここ10年で全体の約半分の174件の地域経済統合が行われている(資料:ECFAと両岸の貿易経済関係セミナー、2010年8月3日)。しかし、経済大国であるはずの日本は動きが遅い。政権交代を果たした民主党は、マニフェストの修正を試みてはいるが、威勢の良かった日米FTAの締結をはじめ、次なる戦略は見えてこない。

 ここでは、中国と台湾のケースを紹介し、日本がFTA交渉で他国に対し、どのようなアプローチを取り得るかを読者諸氏と考えてみたい。中台FTAの締結により、中国やASEANでの戦略シナリオの前提条件は変更せざるをえない。どの国・地域とどのようにつながるか、知恵の絞り時であり、日本はこれ以上の遅延が許されない状況にある。

●中台FTA(ECFA)のインパクト

 中台関係は、08年5月、台湾で国民党が政権を奪還して以降、蜜月状態が続いている。中台両岸は、対立から協力へと舵を取ることになったが、九州ほどの面積の台湾が中国との経済協力を進めるにあたっては、巨大経済に飲み込まれないように様々なシナリオが検証されたはずだ。トータルリターンを計算し、考え得るリスクを排除するよう交渉を進め、国民を説得し納得させた上で、中国との締結にこぎつけたといえよう。

 以下、両岸交渉における実質的な台湾側の実務責任者である黄志鵬・経済部国際貿易局長が、立法院での審議直前、財団法人交流協会の要請により来日した際のセミナーでの説明をもとに、その概要に触れたい。

 なお、黄局長は、膨大な説明資料をプレゼンの時間内に処理し、わかりやすく中台FTAを説明していたが、情熱あふれる話しぶりが観衆を引きつけ、大きな仕事をやりとげげる際のオーラを感じ取ったのは筆者だけではなかろう。講演会では日本側参加者が大きな拍手をもって、その手腕をたたえていた。

(1)交渉プロセス

 締結に向けては、まずは交渉のテーブルにつくという意思決定が必要である。日本同様、台湾でも当然ながら、国内産業、特に中小企業や農業などへの影響が考慮された。交渉プロセスを間違えると、有権者の反発を買い、せっかく奪還した政権そのものが不安定になるからだ。

 交渉に臨んだ理由はいくつか考えられるが、中台FTA戦略を構築し、受け入れていく道を模索しなければ、FTAで各国との連携を進めている中国に外堀を埋められ、世界経済における自由貿易で不利な立場に立たされ、中国に参入する諸外国と対抗できないことが挙げられる。特にASEANの影響に対し、万能薬ではないが、少なくとも鎮痛薬にはなるという発想だ。

 もうひとつは、将来に向けたチャンスをつかむこと。中国とまだFTAを結んでいない日本や韓国に対し、カンフル剤になる(中国との橋渡し、あるいは日韓台での連携)戦略を模索できることだ。

 台湾が中台FTAの「推進」を判断した際に考慮した要因としては、(1)台湾製品の輸出競争力、(2)地域経済統合への台湾の参加促進への寄与、(3)台湾と各国FTAの締結への寄与、(4)台湾企業の権益保障、(5)外国企業の対台投資促進、(6)台湾農水産物の対中輸出を後押しすることが可能かどうか、などがあったが、事前の調査分析報告書では、全てYESだったようだ。

 要するに、ある出来事を判断する際にはベンチマークのようなものを設け、それらをチェックする。トータルで判断し、メリットがデメリットを上回るかどうかを確認することが求められる。こうしたケースでは、どこかの国のように、各論賛成、総論反対で結果何も進まないことが多々あるが、全体を説得して前に進めることが肝要だ。当然、伝統産業、中小企業、内需型産業には影響が出るが、保障や補てんなど、政府の対策を前面に掲げ、理解してもらうことが重要になってくる。

 台湾にとって中国との交渉で難しいのは、政治マターとして巻き込まれないことであり、「有利な条件は将来の統合に向けた中国側からのアプローチではないか」と台湾国民に懸念を抱かせないことである。そのためには、台湾の両岸関係での様々な規定には踏み込ませない、あるいは、既に開放してある品目は、中台FTAでさらに押し切られないように留意することである。例えば、農作物など既に一定の開放がされているものはリストから除外する、中国側からの労働者の就労は認めないなどである。

 そして、前掲のように、協議することには賛成だが、いざ締結となると前例がない、あるいは万が一のリスクを考え尻込みする関係者が急増することの排除だ。そのあたり、実質的な窓口となる経済部・国際貿易局長の力量が大きく影響する。国会議員を押し切る理論家であり、冷静沈着な交渉力が相手(中国)の信頼を勝ち取ることになる。


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