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コラム

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「首都直下地震による帰宅困難者問題(2)
    ~個人が取るべき対応と被害想定」

(「現代リスクの基礎知識」 nikkeiBPnet 2006/04/11)

 今週は、「首都直下地震による東京の被害想定」をベースにした帰宅困難者問題の後半として、引き続き「個人の行うべき対応」を、そして東京都が発表した「被害想定」を取り上げる。

 先週の「企業対応編」には、示唆に富むコメントをいただき感謝申し上げる。不通になった交通機関の振り替え輸送のご提案は、発生直後の道路状況などを勘案すると、実現はなかなか困難ではあるが、ニューヨーク大停電では船による移動の例があったように港や川での船の利用も検討対象となろう(ただし、東京の場合は液状化や橋の倒壊、ベッドタウンの位置関係などで、船輸送の効果のほどは不明ではある)。バスなどによる輸送は、専用道路が確保された1〜2日後のアイデアとしては、念頭においておくべきことだと考える(ただし、動ける者すべてが脱出すると、ボランティア不足に陥るので、様々なシナリオの検討は求められよう)。また、保護者が数日間帰宅困難な場合の子供の保護などの切実なご意見は、政府や自治体の今後の対策にとって大いに参考になるものである。

 なお、いつものように、リスクマネジメントに係る突発的な事象、過去に掲載したテーマのその後については、筆者の個人ブログ「e戦略の視点2」を参照いただきたい。

●個人が行うべき対応

 首都直下地震と聞いて、「東京都の問題か」「地震専門家や災害対策のエキスパートが考えること」と考える人もいるかもしれないが、それではイザという時に発生直後から大混乱が生じる。自分自身の問題として捉えなおし、解釈し、実際の場面に遭遇したときに、応用問題が解けるような「リスクリテラシー」を身に付けることがリスクマネジメントの基本中の基本である。

(1)首都直下地震を誰もが、自らの問題として考える
 巨大地震に遭遇するのは、何も東京都に住んでいる人だけではない。千葉県や神奈川県、埼玉県などの居住者であっても、通勤や通学で東京に滞在する人などが含まれるし、買い物で出かける主婦や高齢者、その子供や孫達も含まれよう。

 また、出張あるいは修学旅行、就職活動等で上京していたなど、たまたま居合わせた首都圏以外からの人、さらには外国人ビジネス客や観光客なども当事者となるであろう。

(2)様々なシナリオを考える
 東京に居た場合、いろいろなケースを想定できる。地下鉄に乗っている、エレベーターの中にいる、オフィスに居る、営業のため出先にいる、昼休みに近くの銀行に行っていた、友達と飲んでかなり酔っ払っている、風邪で寝込んでいるなどなど。

 さらに、地震発生が、夏なのか冬なのか、早朝なのか、午後なのか、あるいは深夜なのか。停電しているのか、水は確保できているのか。

 自分の身だけを守るのか、守るべき家族(小さな子供や高齢の両親、配偶者)はいるのか。さらには、会社の仕事や学校(経営情報や実験中の様々なデータ)をどうするのかなどを考えるべきである。

 ただし、いかなる場合も、命が最優先され、人命救助、安否確認に続いて復旧活動が始まる。

(3)新しい制約条件を追加する
 東京都の被害想定では、エレベーター内への閉じ込めや長時間にわたる鉄道の運行停止、これに伴うターミナルの混乱など、都市型災害独特の対応が前回(1997年度)のものに追加されている。

 帰宅困難者は、東京圏内から来た人で391万人、圏外から55万人、さらに海外からの訪問者が7900人で、合計447万6259人となる。

 ターミナルについては、冒頭で説明したように、東京駅で14万人、渋谷駅で10万人など、主要8駅(八王子や町田を含む)で60万人が帰宅困難になるとしている。

(4)帰れないことを前提に、家族、知人との安否確認方法を考える
 帰れない、あるいは無理して帰らないことを決めた場合、どのように2〜3日間を過ごすのか、それぞれがどのように安全を確保するのか、生き抜くための家族会議を開いておくことが重要である。高齢者や幼児、さらには病人などを抱える場合、なくては困る薬や治療器具などの検討も必要である。

 さらには、個人・家族単位の対応だけでなく、地域内で弱者を把握し、具体的に誰が連絡を取り、どのように安否を確認するか、地域コミュニティ再生へのきっかけづくりにもなる。3月〜4月の異動が多いこの時期に、コミュニティのキーパーソンを中心とした防災対応を再確認することが求められよう。

(5)全ての検討事項が完全ではなく、万能ではないことを前提に
 昼と夜、平日と休日では、地域の主たるプレイヤーが異なってくる。サービス産業が行き渡り、快適な都市生活が約束されるなか、主要インフラが遮断され、水やトイレに不自由することはイメージできても、実際の災害となるとかなりの苦痛を強いられる。どのように災害から立ち直れるのか、家族、地区、地域コミュニティの単位を見直し、対応可能な範囲とサポートする人数を再確認することから始めたい。インフラとツールとマンパワーなどを意識することが大事である。

●「首都直下地震による東京の被害想定」の概要

・被害想定
 中央防災会議の専門調査会が想定したM7.3以外に、M6.9(発生頻度が高い)を加えたほか、風速は3メートル、6メートル、15メートルとした(中央防災会議では、6メートルは想定していない)。気象条件は、冬の夕方18時と冬の朝の5時が想定されている。

 夕方18時は、帰宅ラッシュや、飲食のためにターミナルに滞留する人が多く、昼間人口での死傷者数が最大である。一方、冬の朝5時は、自宅での家屋倒壊による被害者が多い。ただし、鉄道や道路利用者は少なく、帰宅困難者はほとんど発生しない。

・帰宅困難者
 数式による計算ではあるが、勤務先あるいは被災した場所から10Km以内は全員が帰宅可能、10〜20Kmの場合は1Km増すごとに帰宅可能者が10%ずつ逓減し、20Km以上は全員が帰宅困難となっている。これは、過去に発生した地震をもとに、どの程度の距離になると帰りつけないかを推計式で表したものだが、当然、被害の程度により、帰宅困難者数は変化する。東京都区部では345万人、多摩が46万人、合わせて391万人となる。これに都市圏外からの訪問者55万人、海外からの訪問者7900人を加えた447万6000人が、帰宅困難者とされている。

・主要駅別帰宅困難者数
 東京駅14万人、渋谷駅10万人、新宿駅9万人、品川駅8万9000人、池袋駅8万5000人、上野駅4万4000人、町田駅2万8000人、八王子駅1万7000人となっている。合計、主要8駅で60万人が駅で足止めされることになる。

・中高層住宅の被災
 今回の報告書では、地震によるエレベーターの停止や断水による生活支障などが検討されている。特に、給水や飲料水確保のために、エレベーターの止まった高層住宅から階段を下り、給水地点まで移動することの負担が大きい。実際、阪神淡路大震災では、マンション住民の避難した理由は、水道の不便によることが大きい。

●その他

 以上のように、被害想定の改訂に当たっては、新たに様々な要因が加えられ、企業、個人に関わらず、リスクマネジメント上のシナリオやマニュアルの見直しが必要となっているが、さらに、地震発生時に大きく影響する心理的要因についても考慮しなければならない。そこで、参考まで、上記最終報告と同時期に公表された調査結果に触れておきたい。

・「防災に関する世論調査」の概要
 昨年11月17日〜12月4日にかけ、3000人を対象に東京都生活文化局が行った世論調査。有効回答率は71.1%。大地震への不安や備え、帰宅困難者、災害要援護者、地域の防災情報、防災市民組織とボランティア、都政への要望などが調査項目として挙げられている。

 大地震の際の心配事は、「自分や家族の安全確保(89.6%)」「水や食料の入手(70.4%)」「住んでいる家屋の破損・倒壊(66.1%)」「火災の発生(58.2%)」「ライフラインの機能マヒ(55.7%)」が際立っており、残りの項目は25%以下。

 知りたい情報は、「家族や親戚、知人の安否(85.7%)」「水や食料などの入手方法(74.4%)」「ライフラインの被害や復旧状況(62.1%)」となっており、上記心配事に対応している。

 頼りになる情報入手手段は、「ラジオ(69.7%)」「テレビ(60.1%)」が断トツであり、「携帯電話等による災害伝言ダイヤル」は35.3%とネット時代の携帯メールの威力は、あまり認知されていない。

 また、帰宅困難者になった場合に知りたい情報は、「家族や親戚、知人の安否(78.7%)」に続き、「自宅周辺の火災状況(75.8%)」「今居る地域の被害や火災状況(61.2%)」となっている。

 帰宅困難になった場合の準備としては、「何も準備していない」が57.5%にも上った。実際、東京都では、帰宅困難者心得10カ条の一つとして、「携帯ラジオをポケットに」を呼びかけ、机の中にチョコやキャラメルのような簡易食料を備蓄することを薦めている。ラジオを持つことをどれだけの人が励行しているかには疑問がある。また、自宅や会社には非常持ち出し袋があり、懐中電灯や救急医療品は置いてあっても、移動途中には無防備であることにも留意したい。これらはアンケート調査からは出てこない数字である。


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