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コラム

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「首都直下地震による帰宅困難者問題(1)
    ~環境の変化を想定した新たなシナリオ」

(「現代リスクの基礎知識」 nikkeiBPnet 2006/04/04)

 日本テレビが「アースクエイク」と題して、東京が震度7の地震に見舞われた場合のシミュレーションドラマを放送した(4月4日)。そこでは、エレベーターや高層ビルの分厚い防火扉によってビル内に閉じ込められる、あるいは備蓄食料が手の届く範囲に無いといった、最近のビルの高層化に伴う新たなリスクが描かれていた。時間の関係か、帰宅困難者があふれる街の窮状には触れられていなかったが、平時から地震が発生したときの対応を考えることで「リスクリテラシー」を高め、パニックを減らすことの重要性が示唆されていた(関心のある向きは、筆者の個人ブログ「e戦略の視点2」中、ジャンル別の「現代リスク」を参照いただきたい。)

 また、その少し前の3月末、東京都防災会議地震部会が「首都直下地震による東京の被害想定」を発表した。同報告書は、前回(平成9年)の被害想定公表から10年が経過し、都を取り巻く状況が変化していること、平成17年7月に中央防災会議首都直下地震対策専門調査会が国として初めて首都直下地震の被害想定を公表したこと、さらに同月に発生した千葉県北西部地震において、エレベーターでの閉じ込めや鉄道の長時間運行停止、ターミナル駅の混乱など都市の脆弱性についての新たな課題が明らかになったことなどを受け、東京都及び市区町村における地震対策の一層の推進のための基礎資料としてまとめられた。

 報告では、マグニチュード6.9及び7.3の直下地震の発生を想定。いずれの地震規模でも、都下にいる外出者約1144万人のうち、約392万人(34%)が帰宅困難者になると示唆した。このうち、60万人あまりが、東京、渋谷、新宿など主要8駅で足止めされるとみている。東京都は今回の想定に基づき、2006年度の地域防災計画で、駅に留まる帰宅困難者の対策を盛り込むことになる。

 そこで、当コラムでは、今回と次回の2回に渡り、帰宅困難者問題を考えたい。今週は企業の対応を中心に、そして次回は被害想定の詳細と個人の対応に焦点を当てる。

●新たなシナリオに基づく対応の必要性

 政治と経済の中枢を担う「首都」東京で直下型の地震が発生した場合、その影響度合いは過去のいかなる災害とも比較できない大きさと予想され、日本経済に留まらず世界経済に与えるインパクトも多大なものになる可能性がある。いかに災害から速やかに復旧するかを議論するときに、帰宅困難者が路上に溢れ、緊急対応の妨げにならないような、国、自治体、企業、地域、個人の間での防災計画のすり合わせが重要となる。

 これまで企業では、災害発生時には社員をすぐに帰宅させ、家族を含めた安否確認をすることを是としてきたが、あまりにも高度に集中した首都圏では、帰りたくても帰れない人や、思いがけず災害に巻き込まれた人が、身動きとれずに、普段とは違う場所で不安を抱きながら数日を過ごすことになる。

 こうした状況で、今まで蓄えてきた経営資源を再配分し、どのように有効活用するか、議論すべき点は多い。他地域からも、首都圏に対し、どのような連携を提案でき、共に実のある関係を再構築することができるか。新しい産業や市場が生まれる要素がそこにはある。既存の制度や特区の活用など、よりダイナミックな発想も求められよう。

●企業が行うべき対応

 環境の変化を想定した新たなシナリオを構築し、時間軸に従って事前に準備を進め、国、自治体、企業、地域、個人の連携により、首都直下地震での災害、二次被害の軽減を図ることは必須である。ここでは、企業という視点で、新しいシナリオ、追加すべき条件を明示し、対応マニュアルを改訂することの重要さに気がついてほしい。

(1)企業からの明確なサポートの打ち出し
 個人個人が自律的に動くとして、企業は昼間人口としての自社社員を働く場において、いかに積極的に保護するかが問われている。

 大規模地震が発生した場合、企業内に閉じ込められる可能性のある場所はどこか、チェックポイントを事前に作成することや、どの程度の社員が帰宅困難となるかの把握が最初の一歩となる。

 帰宅可能かどうかターミナル駅まで様子を見に行く社員が多いと、混雑に拍車がかかる。20キロを越える場所に住む社員ばかりでなく、10キロを越えた場合でも、通り道の被災状況などによっては移動が日没後にかかることになる。

 1〜2日、企業に留まるとして、電気が使えない、あるいは建物の破損によりビル内に留まれない場合、自社社員を第三の地点までいかに安全に動かすかも問われてくる。

(2)インフラ整備の観点からのサポート企業の整備
 ガソリンスタンドやコンビニエンスストアなどが、沿道での帰宅希望者をサポートするステーションとして、ステッカーをはり、水やトイレを提供する協定を結んでいる。しかし、帰宅時の街は、震災発生3時間後に徐々に帰宅を開始したとしても、満員電車なみの混雑率となり、日没後はかなり危険という報告も存在する。

 昨今、帰宅支援マップがベストセラーとなり、安全に帰宅することが重要課題となりつつあるが、混雑する帰宅途上で、水やトイレの絶対数が足りない状況で、大きな拠点に、臨機応変にトイレや飲料水、救急施設を設けるための仕組みづくりが急がれるところである。

(3)不特定多数が訪れる駅や遊園地、百貨店など
 また、不特定多数の顧客が訪れる業種の場合、様々なケースが想定できる。

 地下鉄の駅の職員は、地上までいかに早く乗客を避難させるかがマニュアルのポイントになっているが、首都直下地震の場合、その地上周辺は10万人の帰宅困難者で溢れかえっている。誘導した乗客をさらに安全な第三の地点に向かわせられるのか、それは周辺の店舗や企業との協議会で検討されているのか。あるいは、むしろ地下鉄の駅構内や駅ビルの地下街が無傷で残された場合、数日から数週間の避難場所として活用が可能か、そのために整備すべきインフラなどを検討することが求められよう。

 地区によっては、すでに遊園地や百貨店などにおける避難誘導の方策が検討されているようだが、実際に発生した場合の対応可能性や啓蒙活動などは十分とはいえず、より精緻な計画、訓練、最新ツールを用いたより効果的なプログラムの開発が待たれるところである。

(4)学校等での待機のあり方
 学校における待機の方法も、検討課題として浮上する。地元に溶け込んだ公立学校と私立学校では対応が違うであろうし、大学と小学校では、家族との再会を含め、マニュアルが異なってくる。

 混乱時に、子供達を家族と引き合わせるための手順、相手の確認をしっかりできる仕組みを作り上げないと、別のリスクが浮上する可能性も否定できない。

(5)準備していても、その場に居合わせない場合がある
 事前にマニュアルなどを整備していても、使えない場合が多い。震災発生時にマニュアルの置いてある場所に居られる確率はあまり高くない。幸運にもマニュアルが近くにあり、その分厚いマニュアルを見ようとしても、緊急時、突発時、まさに地震が発生し、火事が目の前で起きているかもしれないのである。

 マニュアルは前もって、誰が何を担当しているか、漏れがないかを確認する作業であり取り決めたことを記述する作業でしかない。繰り返し訓練をし、身体にしみこませ、いざというときには、自らが動けることが肝要だ。

 そうした意味では、阪神淡路大震災以降に、携帯可能な個人行動マニュアルを作成する動きが多く見られた。


首都直下地震による帰宅困難者問題(2)
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